自己組織化ファシリテーターの田原真人です。

熊本地震の後、有志が集まりメンタルヘルスのための匿名チャット「くまココ」を立ち上げることになりました。

「くまココ」が、必要な人へ届き、私たちが意図しているような使われ方をされることを願って、ここに私たちの物語と願いを書いておきたいと思います。

田原真人(まさと)

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2011年当時、仙台で物理の予備校講師をしていました。また、副業で「フィズヨビ」というネット予備校を運営していました。

東日本大震災と原発事故をきっかけに予備校講師を辞め、仙台を離れました。

そのときに、被害の程度の違い、置かれた状況の違い、放射能リスクの見積もり度合いの違い・・・・など、様々な違いが表面化し、自分の考えていることを口に出すのが難しくなり、孤立していくという経験をしました。

表面的な繋がりは、地震と原発事故をきかっけに、脆くも断ち切られ、多くの分断が生まれ、当時の私は、それに対して何もすることができませんでした。

しかし、その経験がきっかけとなり、「繋がりを取り戻す」ということが、大きなテーマとなりました。

なぜ、私たちは、あの時に、簡単に分断されてしまったのでしょうか?

それは、「私たち」のコミュニティを形成していなかったからじゃなかったのかと思いました。

すでにある組織に組み込まれていく場合、最初に組織の掲げるゴールがあり、そこに必要な交換可能な「部品」として個人が組み込まれていきます。

組織の中での個人間の繋がりは希薄で、個人は報酬を得ることを動機にはたらき、それぞれが決められたことをこなすことで組織が回っていきます。

このような組織、社会において、個人は、いとも簡単に分断されていくのです。

組織や社会のために人がいるのか?

人が集まって組織や社会ができるのではないのか?

ここに逆転現象が生じて、本末転倒の状況が生まれているように感じ、具体的に繋がりを取り戻していく行動を始めました。

「反転授業の研究」というオンラインコミュニティを作り、テストのために学ぶのではなく、自ら動き、自ら学び、周りと協力して未来を創っていくような学び方へシフトしていくためにはどうしたらよいかを話し合いました。コミュニティは約4000人にまで増え、関係性の中から数々のドラマが生まれました。

そして、それらのドラマによって、「私たちのコミュニティ」へと成長していき、コミュニティに生まれたドラマがメンバーに生きがいを与えてくれるようになりました。

組織が先にあってそこに人が組み込まれるのではなく、人と人との繋がりから活動が自己組織化するのが本来の姿なのだということを実感しました。

反転授業の研究では、「熊本×反転G 支援を反転する」という活動を始め、オンラインで繋がり、熊本からの発信に耳を傾けることによって、お互いにエンパワーし合うという取り組みをしています。

東日本大震災から5年たち、私たちは繋がる力の持つ意味を理解することができました。

どのようにすれば繋がりを取り戻すことができるのかも理解できるようになってきて、自己組織化ファシリテーターとしての活動をするようになりました。

熊本震災が起こったとき、何もできずに分断され孤立した5年前の自分のことを思い出しました。ここで、5年間の学びの成果を生かすことができれば、自分自身にとっても大きな癒しにつながると感じています。

2016年2月には、U理論の翻訳者、由佐美加子氏を講師に迎え、「全体性から生きるAuthentic Leadership 基礎特別編」というオンラインワークショップを実施しました。その中で、NVC(非暴力コミュニケーション)のワークを通して、聴くことがどのようにエンパワーに繋がるのかを体験を通して学びました。それらの学びも、今回の取り組みに役立つのではないかと思います。

Ane Ein(エイン)

エイン
田原がエインさんと出会ったのは3年前。社会の構造的な問題を考えるためには、日本を外から見ないと分からないと考えて、Language Exchangeで学び合いのパートナーを探していたときに、当時、18歳だった彼女と知り合いました。

アーティストであり、起業家でもある彼女の存在は、本当に大きな衝撃でした。

社会のことや、教育のこと、精神のこと・・・様々なことをスカイプで話し合い、交流を深める中で、一緒に「Noovo」という会社を作って社会を変えていくことを決め、資金調達のためのクラウドファンディングを実施しました。

こちらからそのときの連載を読むことができます。

ヒエラルキーに満ちた社会をフラットにしていくためにできること

連載を読むと分かるように、エインさんは、過酷な人生を送っています。しかし、それが、彼女の共感力や、本質をまっすぐに射抜く力の源にもなっていると思います。熊本震災のことを知ったとき、PTSDの発生などを心配し、匿名チャットのアイディアを出し、ロゴを作り、チャットシステムを立ち上げたのはエインさんでした。

エインさんからのメッセージ

I hope that it reaches many people.
いっぱい人々に届いてほしい

ありがとう、Masato
この記事に大事なことをきれいにまとまってくれて

江藤由布(ゆう)

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「反転授業の研究」で繋がった江藤由布さんは、近大附属高校の英語教師です。エインさんのクラウドファンディングのときに「個が尊重される社会を作る」というビジョンに共感し、熱烈に応援してくれました。

その後、高校教師という枠組みを大きくはみ出し、2015年には一般社団法人オーガニックラーニングを設立。テストのために学ぶのではないオーガニックな学びによって、人生の経営者を育てるための活動を始めました。教育について同じ志を持つ仲間として、さまざまな活動を共にしています。今年の4月には、田原が主宰する「反転授業の研究」との共同開催でオンラインワークショップ「YOU∞理論」を実施し、お互いが話を深く聴きあう中で根っこで繋がりながら掘り下げていき、根っこの想いに繋がるワークを行いました。

江藤さんは、同じビジョンを持つ同士であり、心強い味方です。

佐藤さわ(さわ)

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仙台でSawa’s Cafeを営む佐藤さわさんも、東日本大震災をきっかけに人生を大きくシフトした一人。公認会計士を辞め、NPOこころの休憩所を立ち上げ、人と人との繋がりを大切にするために活動を始めました。

エインさんのはじめたクラウドファンディングを応援してくれたころから縁が深まり、社会の逆転構造を、再逆転して元に戻していくための活動をともにするようになってきました。

Sawa’s Cafeは、社会変革の実験台として、収益をすべて公開し、経営者である店主とお客さんの境界を取り払って一緒に運営を考えていくというやり方を実施しています。

社会変革ファシリテーターのBob Stilgerさんの著書『未来が見えなくなったとき、私たちは何を語るのだろう』を読んだとき、すぐにさわさんに紹介しました。この本には、東日本大震災のときに私たちが感じたこと、そして、今、生まれようとしていることが書いてありました。

私は、Bob Stilgerさんに連絡を取り、スカイプで話をし、活動を応援することを約束しました。

昨年、Bobさんと榎本英剛さんが東北ラーニングジャーニーを企画していることを知り、そのことをさわさんに伝えると、さわさんが、参加することになりました。

福島各地を訪れ、現実を目にし、アクティブ・ホープの「つながりを取り戻すワーク」などを行うラーニングジャーニーを通して、さわさんは、多くの人たちと繋がりを深めていき、仙台を拠点に力強い渦を巻き起こしています。

「全体性から生きるAuthentic Leadership基礎編」「YOU∞理論」などの活動も共にし、聴くことについて共に学んできました。

さわさんよりメッセージ

誰かに話すだけで気持ちが楽になることは絶対にある」というのは、Sawa’s Cafeのコンセプトでもあります。でも、相手の顔を見ながら弱音を吐いたり愚痴を言うのは、私自身がとっても苦手。だから、顔を出さずに匿名でただ流れていくような掲示板は、使いかた次第で本当に救いになると信じています♪

広本 正都子(せつこ)

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東北ラーニングジャーニーでBobさんの通訳を務めていたのがせつこさんでした。せつこさんは、フランス在住ですが、Bobさんや榎本さんの活動に共感して、手伝うことができればということで、はるばる東北へやってきました。

せつこさんとさわさんが、東北ラーニングジャーニーを通して繋がりました。

Bobさんが、仙台のSawa’s Cafeを訪問したときに、オンラインでつないでもらい、田原とせつこさんもそこに参加しました。

7月には、持続可能な社会の在り方を学ぶためにジンバブエに行くラーニングジャーニーが企画されていて、さわさんは、そこに参加することを予定しています。せつこさんも通訳として参加するそうです。

縁は、国境を超えて紡がれています。

田中力磨(りきま)

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りきまさんは、滋賀県で自宅を使って「塾みたいなもの」をやっています。普通の塾と違うのは、教えるのではなく、育てることに重心を置いているところ。感情に素直に従うりきまさんの在り方に触れているうちに、子どもたちが自分から学び始めるのです。

りきまさんが経営しているブリッジに興味が湧き、インタビューさせていただいたことから縁がつながりました。

専属コーチのブリッジ代表、田中力磨さんインタビュー

りきまさんが、今の仕事をするようになったきっかけは、就職した会社でパニック障害を発症して、何度も転職をせざるを得なくなったことでした。しかし、それが、自分としっかり繋がって生きるという今のりきまさんの在り方に繋がっているのだと思います。

在り方をテーマに対談もしました。

阪神大震災の記憶を持っているりきまさんは、今回の熊本地震に対して何かをしたいということでチームに加わりました。

りきまさんからのメッセージ

『僕はこのプロジェクトをボランティアだとは思っていません。これは自己デトックスです。自分の経験や体験したことが、誰か一人にでも届けばと思っています。幸せの根が繋がれば幸せな人が増えると思っています。』

片橋匠(たくみ)

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田原が開催するオンラインの試みに熱心に参加してくれた熊本大の大学生がたくみさんでした。

海外志向が強く、様々なことにチャレンジしていました。

私と初めてリアルで会ったのは、出張先のシンガポールでした。たくみさんは、インターンでシンガポールで来ていて、ご飯を食べながらいろいろなことを語り合いました。

熊本で地震が起こり、被災したたくみさんは、避難所の小学校から冷静なレポートをFacebookに投稿し続けていました。

協力して何かができないかと思っていたときに、たくみさん、エインさん、さわさんから「くまココ」のアイディアが出てきて、それに私も参加することにしました。

自分自身も被災している状況の中で、たくみさんが現場で動いてくれたことで、くまココを立ち上げることができました。

こんにちは。熊本の大学院生の片橋です。熊本地震により「増幅された分断」を、避難所など各所で目の当たりにし、途方にくれました。 健常者とハンデがある人。若い人、年配の方。家が無事だった人、全壊だった人。生き残った人、お亡くなりになられた方。被害がひどい所、割と無事な所。物資が行き届いた避難所、全く足りない避難所。そして、立ち直りが早い人、耐え難い苦しみを抱えておられる方。 そうした分断は、震災が起こる前からも、実はずっとそこにありました。ただ、表に出ておらず、見えていなかっただけです。そうした分断に、被災してから気づきました。 お互いの立場こそ違えど、同じ被災者であり、熊本に心を寄せる仲間です。相手の立場に完全になりきる事は不可能だけど、1%でもいいから寄り添い、分断の壁を乗り越え、より建設的な復興をデザインしていきたい。「くまココ」が、そうしたささやかな場所になりますように。

林和文

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片橋さんが、大学1年生だった5年前に出会ったのが、子ども向けのプログラミング教室(ハッカデミー)を経営していた林和文さん。

林さんが長年勤めていた会社を退職して立ち上げたハッカデミーは、年齢や肩書き、学校や会社の枠を飛び越えて、子どもも大人も集まってくる場所で、皆がそれぞれの好きな事に夢中になり、遊びながら学び、学びながら遊ぶという場所で、大学での学びにやりがいを見いだせなかった片橋さんにとって、熊本にあるMIT、松下村塾のようなかけがえのない存在になったのだそうです。

林さんと片橋さんは、カフェで毎週のように語り合い、起業家精神やIT、人生相談まで何でも語りあい、片橋さんが留学するときには、林さんが、

「自信や可能性を狭い場所に閉じ込めるのは、もう終わりにしよう。見切り発車で熊本から世界に飛び立つんだ!」

と声をかけてくれたおかげで決意を固めて踏み出すことができたのだそうです。

しかし、熊本地震の1カ月前に突然の火災によりハッカデミーが全焼し、追い打ちをかけるように熊本地震が起こりました。

林さんは、そんな状況の中でも、

「家事、地震で全部失ったからこそ、なにが大切なのかがとてもシンプルになった。“モノありきでないと何もできない” この思考から、今こそ熊本はパラダイムシフトをすべき時。ハッカデミーが無くなっても、人と人とのつながりは残った。人が2人いれば、いつでも、どこでもコミュニティーはできる。そのつながりこそが宝物。」

と明るく前向きに語っていたのだそうです。

林さんは、こちらの記事で紹介されています。

起業してすぐに会社が全焼。それでもポジティブに生きる人に話をきいてみた。

片橋さんの紹介で、林さんがくまココの有志ボランティアに加わって下さいました。私たちは、皆、人と人との繋がりからこそ、何かが生まれると信じて行動しています。くまココも、人の繋がりから生まれるものの1つになると確信しています。

 

なぜ匿名チャットを立ち上げたのか?

東日本大震災のときに、身近なところに想いを分かってくれる人がいないことが辛かったのです。

身近な人だからこそ、言えないことがたくさんありました。

そんなときに、インターネットで自分と同じようなことを感じている人を探し、見つけることができたおかげで救われたという体験がありました。

Twitterや2chもありますが、それらは炎上する可能性があります。

メンタルが弱っているときに心無い言葉を投げつけられたり、攻撃されたりするのは辛いです。

実名を出している有志ボランティアが荒れないように見守っている中で、匿名で書き込むことができるチャットがあれば、助けになるのではないか?

私たちの経験から、そのような結論になりました。

くまココは、muut.com というチャットシステムを使っています。

1)登録なしで、匿名で書き込むことができます。

2)muut.comにアカウントを作成し、ハンドル名、または、実名で書き込むこともできます。

まずは、こちらから気軽に訪問してください。

くまココ

 

熊本のみなさんへのお願い

まずは、気軽にアクセスして、書き込んでみてください。匿名でOKです。

そして、もし、メンタルが弱っていて、誰かと繋がることを求めている人が周りにいたら、くまココのことを教えてあげてください。

このチャットが、必要な人のところに届き、意図通りの使われ方をされることを手伝ってください。

私たちに足りないのは、このチャットを必要な人へ知らせる手段です。

掲示用のポスターも用意してありますので、ご連絡いただければお届けします。

みなさんの力を貸してください。

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