主体的な学びの場は、どのような構造を持つのでしょうか?
今までのように、やるべきことが決まっていて、特定の刺激に対して、特定の行動をするように強化していく訓練の場では、教師ー生徒、上司ー部下のような縦の二項関係が効果的です。
このような縦の二項関係は、グーとパーしかないジャンケンのようなものです。
このような状況では、指示をする側と、指示をされる側とが固定され、いつしかその環境に双方が適合し、役割にはまっていきやすくなります。
社会状況が複雑化、流動化して、分かりやすい正解が見いだせない現在、主体的な学び、自律的な行動が求められています。
もし、学習者が主体的に学ぶことを願ったり、部下が自分で考えて自律的に動くことを願ったりするならば、縦の力を弱めて、相互に学びあう横の力を強めていく必要があるでしょう。
そのためには、縦の力が働いている環境の下で身につけたパターンに両者が気づき、それを手放していく必要があります。
その気づきが起こりやすくなるための仕掛けが、「媒介としての第3者」の存在です。
グーとパーしかなかったジャンケンに、「媒介としての第3者」としてチョキが加わることで、関係性が流動的になるのです。
一方的に情報が流れる「縦の関係」は、相手からのフィードバックループがないので振り返りによる経験学習が起こりにくくなりますが、「媒介としての第3者」の存在によってフィードバックループができるので、両者に経験学習が起こりやすくなり、内省を通した学びと気づきが生まれやすくなります。
フィードバックループが生まれ、両者が振り返りによって気づきを深めていくことで、固定化されていた役割が緩み、主体的な行動が生まれやすい環境が整っていきます。
媒介を導入して主体的な学びを構築した例
京都精華大学 グループワーク概論
筒井洋一さんが、京都精華大学時代に行ったグループワーク概論では、CT(Creative Team)と呼ばれるボランティアが教員の代わりに前に立って授業を行い、教員ーCT-学生ー見学者が、授業後に振り返りを行うという形をとっていました。
その様子は、筒井洋一さんらの著書
CT(授業協力者)と共に創る劇場型授業―新たな協働空間は学生をどう変えるのか
の中で解説されています。
グループワークは、学生の主体的な学びによって成り立ちますが、多くの学生は、これまで育ってくる中で「受動的な学びの態度」を身につけていることが多いです。
その枠組みをゆらがしていくのがCTの存在です。
学生と年齢のあまり変わらない若いCTが、目の前で、失敗を繰り返しながら授業創りを行い、学生や見学者、教員からのフィードバックを受けて学び、成長していく様子に触発されて、学生の主体的な活動が引き出されていき、学生もまた、CTや見学者、教員からのフィードバックを受けて学ぶようになっていきます。
グループワーク概論では、CTという媒介者、さらには、見学者も媒介者となり、複雑な関係性が教室内に生まれて、学生は適合すべき枠がないことに戸惑いながらも、主体的に動き始めることを促されていく仕組みになっています。
「反転授業の研究」のオンライン講座
2012年12月にスタートした「反転授業の研究」では、2014年から学習者中心のオンライン講座を、主に教員向けに実施するようになりました。
主体的な学びが起こるための場の作り方として、筒井洋一さんたちの取り組みを参考にし、
講師+運営 - 運営ボランティア - 受講者
という3者関係を作り、運営ボランティアには、運営の顔と受講者の顔の両義性を持たせることで、媒介者の役割を果たしてもらうことにしました。
講座が継続する中で、受講者を体験した人が、その次には運営ボランティアの役をしたり、運営や講師の役割をしたり、というように役割を変えていくことで、関係性がフラットになりやすい状況が生まれていきました。
ママプレナーズオンライン講座
ママの起業家(=ママプレナーズ®)向けのオンライン講座を実施しました。このときは、運営のリソースが足りなかったため、受講者の中から「運営盛り上げ隊」を募集するという方法をとりました。
講師+運営 - 運営盛り上げ隊 - 受講者
という3者関係を作り、運営盛り上げ隊は、もともと受講生であり、かつ、運営としても関わるという両義性を持つ媒介者の役割を持つことになりました。
その結果、受講生が主体となったスピンアウト対話が1カ月で30回以上も実施されることになり、過去最高レベルの活性化した場となりました。
自己組織化コミュニティの作り方
コミュニティの自己組織化をテーマにした2ヶ月間のワークショップを実施しました。コンテンツはすべて動画で、オンラインの対話を中心とした構成で、0期と1期は、運営ボランティア10数名が、運営と受講者とを繋ぐ形となりました。
0期のときは、反転授業の研究のメンバーが運営ボランティアに入り、1期のときは、0期の受講者の中から運営ボランティアを募りました。
講師+運営 - 運営ボランティア - 受講者
という3者関係を作ると、運営ボランティアが、運営と受講者の両義性を持つため、受講者の主体的な動きが引き出されやすい形となりました。
2期では、運営ボランティアを媒介ではなく、運営サポートという形にして、
講師+運営+運営サポート - 受講者
という2項関係にしたところ、「講座感」が生まれて、受講者の主体的な動きが、前の2回よりも少なくなったと感じました。
改めて、媒介者の存在が重要であることに気づくきっかけにもなりました。
Zoomを使ったオンライン講座の開き方
学習者中心のオンラインの学びの場の作り方を伝えるオンライン講座を1カ月で実施しています。講師が一方的に伝える時間を減らすために、コンテンツはすべて動画にして、学習者がMoodleやスクールタクトといったプラットフォームに課題を提出し、お互いの違いから学びあう協働学習の場創りをしています。
受講者が教育関係者が多いこともあり、旧来の講座の枠組とは違うことを認識してもらうための媒介者の役割が、他の講座にもまして重要になります。
この講座では、共創カタリストという役を、元受講生の中からお願いしています。
講師+運営 - 共創カタリスト - 受講者
という3者関係の中で、受講者が受講者としても関わっている共創カタリストに触発されて活動しやすくなります。また、共創カタリストは、受講者に近い立場から運営と講師にフィードバックを与え、それを参考にして講師と運営は、講座を柔軟に調整しながら進めていくことができます。
子どもと大人の共創読書会
自己組織化する学校プロジェクトでは、子どもが興味関心に従って、自由に選択したり、決断したりできるオンラインの学びの場創りをしています。
ここでは、子どもが教え役になり、大人が聞き役になり、ファシリテーターが媒介者となります。
教え役(子ども)-ファシリテーター(大人)-聞き役(大人)
という3者関係の中で、それぞれが、日常の役割を抜け出して、いきいきと学んでいます。特に子どもたちが、この学びをとても楽しんでいます。
EMS(Essential Management School)
西條剛央さんの本質行動学を学ぶためのスクールです。100人100通りの学びということで、学習者中心の学びが設計されました。
ここでは、
講師+運営 - FA(Facilitative Assistant) ー 学習者
という3者関係が取り入れられ、私はFAとして関わりました。
FAや学習者が多様な部活動を立ち上げるなど、学習者主体の活発な動きが生まれました。
まとめ
- 教師ー学習者 のような固定化されやすい二項関係に、両義性を持った媒介者を入れることで、関係性にゆらぎが生まれ、学習者が主体的に動きやすくなる。
- 教師⇒学習者 といった縦の関係が生まれやすい状況の中で、教師ー媒介者、学習者ー媒介者 というフラットな関係を導入することで、教師と学習者の関係をフラットにしていけるようになる。
- フラットな関係の中で、正解を一方的に押し付けられることなく、自分の考えや、感じていることを発信しやすくなり、周りからのフィードバックをすべての関係者が受け取り合って、経験学習サイクルを回せるようになる。
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