『アクティブ・ホープ』を読みながら、自分の体験を振り返って言語化しています。

今回は、連載の最終回です。

気持ちが奮い立つようなビジョンをつかまえる

僕は、子どものころから、空想癖が強くて、油断していると今でも、頭の中が空想の世界へ飛んでしまいます。

そうなると、注意がおろそかになり、小学生時代に、ランドセルを学校に置いたまま、1Kmの道のりを歩いて自宅に帰って来て、ランドセルを玄関に置こうとしてはじめて、それを背負っていないことに気づいたということもありました。

親からは、「そんなんじゃ、いつか取り返しのつかない失敗をするよ。」と言われ、実際に、いろんな失敗をしてきました。

医者になるのは絶対にやめようと思いました。

手術をしているときに気持ちが逸れて、何かを体の中に置き忘れたまま縫い合わせてしまうような失敗をしてしまうんじゃないかと思ったからです。

このような性質は、自分がきちんと作業をすることを妨げるという意味では欠点ですが、ビジョンを持つためには、もしかしたら役立っているのかもしれません。

脳の働きに関する数十年間の研究によって、私たちは、人間の二つの大脳半球が異なった働き方をすることを理解し始めている。左脳が言語や合理的な理屈で思考するのに対し、右脳はイメージやパターンを使って機能し、私たちが複雑な情報を融合し、ものごとの大局を感じ取るのを助けてくれるのだ。私たちの教育システムはほぼ言語と数字にしか関心がなく、私たちはまるで、脳の半分だけ使うように教えられているかのようだ。ビジョニングの能力を養うための第一歩は、それが知性の一つの形であって、学ぶことができる重要な能力だと気づくことである。

-- 『アクティブ・ホープ』 p220

物理学のトレーニングを受けたことは、想像力をうまく使うようになるためにとても役立ちました。

抽象化と具体化とを行き来しながら、様々な分野の出来事を結び付けられるようになったからです。

細胞性粘菌を研究しているときに、細胞集団にマクロな「個」が生まれるために重要な要素は、次のようなことであると抽象化しました。

コミュニケーションの伝搬速度が上がり、集団ダイナミックスのタイムスケールと、ミクロな個のタイムスケールとがカップリングすること

このように一度、抽象化してから、これを人間社会に当てはめてみたときに、インターネットが決定的な役割を果たすのではないかと思いました。

僕が大学院で研究していたころは、まだ、インターネットの黎明期でしたので、スカイプのようなサービスもなく、テキストベースでのやり取りだけでした。

でも、今後、この技術が発展していけば、遠く離れた人同士でも一瞬で繋がってグループになっていくはずだし、グループ内の情報の共有も一瞬にして行われる。そうなると、どこかで閾値を超えて、マクロな「個」のようなものが生まれていくのではないか。

20年前にそんなことを夢想していました。

マクロな「個」というイメージは、僕の心を大きく刺激しました。『パラサイトイブ』がSFホラー対象を取ったことに刺激され、自分もSFを書いてみようと思って『OMERA』という小説を書きました。

OMERA

R研究所の地下室にでは、飼育員の中島が、実験用のクローン猿たちに向かって「おめーらは、よう、かわいそうになぁ」と語りかけていた。

ある日、クローン猿たちに集団意識が芽生え、「私は、OMERA」と話し始める。

クローン猿たちの集合意識の知性レベルは、人間個人の知性レベルをはるかに上回り、OMERAは、街を支配し始める。

それに対抗するために、人間も集合意識を生み出す方法を見つけ、クローン猿と人間の集合意識同士の戦いが始まる。

争いの中で、さらに上位の集合意識の存在に気づく人間や猿が現れ、戦いの意味についての問い直しが始まる。この戦いは、生命体としての集合意識の存在に気づくためのプロセスだと意味づけらることによって、戦いが終了する。

数百ページ書いたところで読み直してみたら、自分の文章力の無さに愕然とし、アイディアだけでは小説は書けないのだということに気づいてあきらめました。

 

その後、研究を離れ、10年以上が過ぎました。

「反転授業の研究」で、ワールドカフェについて学んだとき、対話によって集合知を生み出す手法なのだということを知りました。

自分の心の底に沈んでいたイメージが、再び表層へと浮かび上がってきました。

そして、オンラインの対話を重ねているうちに、次々とビジョンが生まれてきました。

・オンラインコミュニティに集合知を創発させ、自己意識を、私から、「私たち」へと広げていき、全員参加型の共生・共創社会を生み出す動きを支えていく。

・国境を超えたオンラインコミュニティに「私たち」を生み出すことで、平和維持の力にしていく。

これらを実現するために、創発が起こるようなオンラインコミュニティ運営や、Web会議室を使ったオンライン対話セッションを開発していくことにしました。

国境を超えた交流をするために、英語でのコミュニケーションに本気で取り組み始めました。

遠隔コミュニケーションの質と量を高めていけば、あるところで閾値を超えて、広範囲に広がる「私たち」が創発し、多くの課題が「自分ごと」になることで解決されていくのではないかというイメージが湧きました。

そのイメージに導かれるように、「反転授業の研究」に参加型のオンライン講座が誕生したり、国境を超えてオンラインで語り合うオンラインコミュニティGreen Bird Cafeというが生まれたり、クラウドファンディングの支援者たちと一緒に外国ルーツの子どもたちを支援するオンラインコミュニティが生まれたり・・・様々な活動が次々と生まれています。

未来に何が起こるのかを確実に知ることは私たちにはできないので、何が起こってほしいか、ということに意識を集中させ、それが実際に起こる可能性を高めるために自分にできることをする、という方が理に適っている。そして、それこそが、アクティブ・ホープなのである。

-- 『アクティブ・ホープ』  p224

インターネットで繋がることで、サイバースペースに「私たち」を出現させるという試みを夢想しながら、2012年12月にひっそりと始まったオンラインの読書会が、3年後には、3600人のオンラインコミュニティに成長し、教育界に大きなインパクトを与えそうな勢いになっています。

その経験があるから、どこかでひっそりと始まっている試みも、「つながる力」によって大きく成長し、大きな動きを生み出すことができる可能性があることを信じることができます。

 

集合的知性によって選ばれる

『アクティブ・ホープ』の中には、メタレベルの「個」の話が頻繁に登場します。それは、集団的知性という言葉であったり、エコロジカル・セルフという言葉であったりします。

僕の人生のテーマと『アクティブ・ホープ』のテーマは、強く強くシンクロしています。

エコロジカル・セルフという、より大きな自己から導きの合図を受け取ることができるのなら、それは、気持ちが奮い立つようなビジョンを私たちがつかまえると言うよりも、そうしたビジョンが私たちをつかまえるのだと言えるのかもしれない。どんな状況にも潜在的な可能性というものがあり、出現しようと待ち構えている。夢うつつでビジョンを見ている状態のときに私たちはそうした可能性を垣間見るのだ。そしてそうしたビジョンを私たちがつかまえたとき、それらは私たちを通して働き、私たちの行動という形に結実する。同じビジョンが数人をつかまえて、目的を共有する1つのコミュニティとして結びつけることもある。そう考えると、ビジョンというのは私たちが生み出すものでなく、私たちはビジョンに仕えているのだということもできる。

-- 『アクティブ・ホープ』 p236

自分の頭の中に浮かび上がったビジョンを、「自分が考えたもの」と考えずに、生命の織物を行き来する情報やイメージが、自分を通して現れてきたものと考えることは、それほど不自然なことではありません。

Facebookや、オンライン講座のフォーラムで書き込みをしていると、他の人の考えとシンクロし、他の人の言葉や考えを借りながら、自分のモヤモヤした思考を言語化できるようになるということを頻繁に経験します。

このようにして言語化されたものは、自分の中にあったものと、他の人の思考とのパッチワークです。さらに、自分の中にあったものも、もとを辿れば、誰かの思考を借りてきたものです。

多くの人の頭の中を言葉が飛び交いながら、様々な組み合わせが試行錯誤されていくうちに、多くの人の心を動かすような言葉やイメージへと磨かれていくのではないでしょうか。

ですから、コンテクストによって土手を作り、問いによって場に多くの思考を流していき、それらが自然と結びついて意味を成していくようにするワールドカフェの手法は、ぼくにとってとてもしっくりきます。

これは、ワールドカフェのメンバーが協力して集合知を生み出したという見方もできますが、もし、集合的知性の存在を認めるのなら、ワールドカフェという手法によって集合的知性にアクセスすることができたということになるでしょう。

ワールドカフェの産みの親であるアニータ・ブラウンは、ワールドカフェを、集合的知性(collective intelligence)にアクセスすることのできる方法として捉えていると発言していました。

集合的知性という考え方によれば、そうやって何かに応えようとするとき、あなたは決して一人ではない。そこではもっと大きな物語が進行していて、その中である特定の役割を演じることをあなたが選んだ、またはそのためにあなたが選ばれたに過ぎないのだ。自分よりも大きな知性を信頼するならば、同じくそれぞれの役割を演じているたくさんの仲間や助っ人のサポートを受け入れることもできるであろう。ジョーゼフ・キャンベルが書いているように、「あなたの至福に従いなさい・・・そうすれば、これまで扉のなかったところに扉が開く」のである。

-- 『アクティブ・ホープ』 p242

自分の周りにサポート・システムを作る

『アクティブ・ホープ』の第11章では、次の各レベルにおいて自分のまわりにサポート・システムを作る重要性が語られています。

・習慣や日々の実践などの個人的なレベル

・直接顔が見える人間関係のレベル

・自分が属する文化・社会のレベル

・すべての生命とのつながりを前提としたエコスピリチャルなレベル

――『アクティブ・ホープ』 p273

『反転授業の研究』に取り組んで1年くらいが過ぎたころ、自分だけが頑張っていて、空回りしているのではないかという気持ちが生まれて、苦しくなりました。

当時は2600人ぐらいのコミュニティだったのですが、その中に創発が生まれるためにどうしたらよいのかということを考え、グループに問いかけたりしていました。

ファシリテーションをテーマにしたオンライン勉強会では、自己組織化が起こるための条件をテーマに話をしました。

グループ内に自己組織化を増やすためには、相互作用量を増やすことが必要で、そのためには、

パスの受け手:「助けて」、「手伝って」という人

パスの出し手:「助けるよ」、「手伝うよ」という人

の両方が必要なのだけど、日本人に一般的なマインドセットだと、他人に迷惑をかけてはいけないと思いがちだから、パスの受け手が足りなくなってしまうので、積極的にパスの受け手の役割を果たしていくことが大事だということを共有しました。

このようなことを共有したことにより、安心して助けを求められるようになり、協力し合うことができるようになりました。

自分ができることで貢献して、できないことは助けてもらえばいいというように感じられるようになると、心が軽くなって、頭も自由に動くようになってきました。

逆に言えば、一人でやらなくてはいけないという考えが、知らず知らずのうちに、自分の発想さえも押さえつけていたのだということに気づきました。

 

助け合いが当たり前になってくると、本来は、このような関係性のほうが自然なのではないかという気持ちが生まれました。

朝、海を見ながらコーヒーを飲み、体に風を感じていると、自分が地球の長い歴史の中で生き物の1つとしてここに存在しているということを感じられます。

自分も生命の織物の一部として、情報やエネルギーを自分の体内に巡らせているということを感じられるのです。

私たちが呼吸する酸素は、植物やプランクトンがなければ存在しない。土壌や植物、受粉を媒介する昆虫、そして他の生き物たちが構成する、豊かで複雑な、生きた環境がなければ、私たちは食べ物を手に入れることができない。私たちの生命が他の生命体によって支えられている、ということを私たちが深く理解したとき、彼らにお返しがしたいという思いが自ずと強くなるはずだ。

  --『アクティブ・ホープ』 p287

 

熱意と活力を保ち続ける

生物物理で自己組織化を学んだこと、ネット予備校運営でインターネットの使い方を学んだこと、オンラインコミュニティ運営に関わるようになったこと、参加型のオンライン講座の運営を開発したこと・・・自分自身のこれらの強みと、「大転換」のビジョンとが結びついたとき、自分の身体の中からエネルギーが湧いてくることを感じました。

著述家であり牧師でもあるフレドリック・ブフナーはこのことを、「私たちが心の奥底で感じる喜びと、この世界の根底にあるニーズが出会う」ところ、と描写する。この融合点を見つけたとき、「大転換」は、私たち一人ひとりを通して、その人にしかできない独特の形で姿を現すのだ。

  -- 『アクティブ・ホープ』 p298

広い意味での活動家として、「つながる力」を発揮して、周りと助け合いながら、「大転換」へ向けて進んでいくプロセスそのものに幸福感を感じています。

今から考えると、東日本大震災の後、アクティブ・ホープのつながりを取り戻すワークのスパイラルが、自分の中で回っていたのだと思います。

東日本大震災で世界に対する痛みを感じ、自分がどうやって生きてけばいいのかが分からなくなり、カオスに入りました。

その中で、徐々に自分の価値観やマインドセットをつくり変えていくことができ、新しい目で見ることができるようになりました。

「反転授業の研究」などの活動を始めるようになり、前へ向かって進み始めました。

協力し合える関係を作るためにどうしたらよいかを考え、自分のこだわりを捨てて心をオープンにしていったことで、周りからのサポートを得られるようになり、自分の心の中に感謝の気持ちが溢れました。

心をオープンにしたことで、世界の痛みを感じる感度が上がり、多くのことに対して自分ごととして取り組むようになりました。

自分ごととして取り組むことで、今までに出会わなかったものと出会うことになり、マインドセットの変化が起こりました。

自分のマインドセットの変化により、世界に対する見方が変わりました。

新しく見えてきた道を、今進んでいるところです。

震災後の4年間でスパイラルが1回転半ほど回り、自己の範囲が広がり、心の感度が高まり、前へ進む勢いが生まれ、周りに対する感謝を強く感じるようになっています。

 

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このスパイラルを、さらに回していくことになると思います。

まだまだ旅は始まったばかりですが、確かな希望が湧いています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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